第一回 ワキ方主催の「華宝会」と演目

能楽はユネスコ世界無形文化遺産 認定第一号であり、現存する世界最古の演劇です。最近ではドラマ「俺の家の話」で能楽が舞台として取り上げられ、より多くの人がその伝統的な美しさに興味を持たれたと思います。しかしかねてから「言葉が難しそう」「敷居が高くてなかなか見に行けない」という声が少なくありません。

そこで今回は、能の舞台で「ワキ方」という役を専門で演じる流派、下掛宝生流の野口能弘さんと琢弘さんのご兄弟に、この令和3年7月11日に主催される「華宝会」に先んじて曲への思いや演目の見どころを伺いました。


舞台の前に予習をしたり、舞台の後も思い出して楽しんでいただけるよう、ワキ方ならではの視点で興味深いお話をいただきました。



今日はよろしくお願いいたします。

野口能弘さん(以下、能弘さん):

よろしくお願いいたします。みどころや曲についてのお話ということですが、「能はこういうものだ!」というような先入観はあまり持たないほうが自由に面白く観られるのではと思うので、難しすぎる話にならないよう気をつけますね。


さっそくですが、「華宝会」は数少ないワキ方主催の会ですが、演目は毎回どのようにして決めているのですか?


野口能弘さん(以下、能弘さん):

華宝会のコンセプトとして「ワキ方の勉強会」というものがあります。謡物(謡や語りを聞かせる曲)も大事なんですが、やはり型物(特にワキ方の動きが多い曲)は歳をとると演じづらくなるので、体が動くうちに演じたほうがいい。琢弘は前々回が「張良」、前回が「大蛇」と型物を順番にさせているので、今年は同じく型物で琢弘がまだ演じたことがない「春栄」を最初にやることにしました。「春栄」では脇仕舞*があるんですが、実はワキの仕舞自体もそれが劇中にある曲も、数えるほどしかない。琢弘はそれをやったことがないので、その勉強というのも「春栄」を選んだ理由の一つです。

一方自分は、型物の切った張った的な緊張感との対比でゆったりとした舞の優雅な曲、ということで「融」を選びました。


野口琢弘さん(以下、琢弘さん):

型物をやるとだいたい曲が派手になりますね。特にワキの型物のときは。


能弘さん:

うちの父(野口敦弘師)の時は、型物や謡物をある程度やってしまった後に、ちょっと渋くて玄人好みな動きの少ない曲を勉強のためにやりました。でも自分たちはそういった曲はその年齢になってからやればいいし、見る側としてもちょっと難しいだろうと。なので初心者の方でも目で楽しめる、予備知識がなくてもそれなりに楽しめそうな曲、というのを華宝会の選曲のポイントとしています。


*ワキ仕舞
仕舞とは、演目の見どころを抜き出して囃子を伴わずに舞う上演形式で、多くの場合シテ方が鑑賞や稽古用に演じる。中でもワキが演じる仕舞を「脇仕舞」と呼ぶが、数が少なく、演じられることも稀である。


(第2回に続く)

関連リンク:

ワキ方について 

下掛宝生流について 

〜下掛宝生流 オフィシャルサイト〜


写真・文:国東 薫 ※無断転載・転用はお控えください。